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仙台高等裁判所 昭和45年(う)354号 判決

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

本件各控訴の趣意は、被告人両名の弁護人竹内重雄名義および被告人長谷川の弁護人阿部秀男名義の各控訴趣意書に記載のとおりであるから、いずれもこれを引用する。

各弁護人の控訴趣意について

論旨は要するに、原審相被告人水野公正が農道上に停車した自動車内で佐藤キミ子を強姦し負傷させた原判示強姦致傷罪に関して、原判決は被告人両名ならびに原審相被告人松崎悟、同関俊次の計四名が犯行現場で水野と暗黙に意思を通じてその全員五名の間に強姦の共謀が成立した旨認定し水野を除くその余の右四名をも強姦致傷罪に問擬したが、右共謀関係が成立した事実は証拠上認めることができないから、これを認めて被告人両名を有罪とした原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があるというのである。しかしながら、原判決挙示の証拠を総合して本件犯行の経緯、態様を検討するに、被告人両名ならびに原審相被告人水野公正、松崎悟および関俊次は、中学校時代の同級生であり、被害者佐藤キミ子も同級生でお盆休みを機会にその前日行なわれた同級会で互いに顔を合わせた間柄であるところ、本件当日夕刻、被告人ら右五名が二台の普通乗用自動車(「カローラ」および「コロナ」)に分乗して走行中、帰宅途上のキミ子に会い、「若松に食事に行こう」などと同女に誘いかけて、午後六時三〇分頃本郷町の同女方前附近からこれを乗せて若松市方面へ向け出発したこと、右同乗させるに先立ち、水野は、同女を自動車でどこか人目につかない処へ連れ込んで強いて姦淫しようと考え、「キミ子を連れて行つてやつちまうべ」と被告人長谷川、関および松崎に誘いかけ、さらに松崎がこのことを被告人鈴木に伝えたこと、右出発の後、予定の若松市内の食堂には立寄らず、そのまま走行して河東村地内強清水の食堂に至り同所で飲食したあと、水野は、自らコロナを運転しキミ子を助手席に乗せ後部座席に関が乗つて先発し、本郷町へ向う旨同女に云い聞かせつつ走行し、松崎運転のカローラが被告人長谷川、同鈴木の同乗でそのすぐ後に続き、途中長谷川がコロナの後部座席に乗り移るなどして二台の自動車が県道猪苗代塩川線を西進したこと、そのうち午後八時三〇分頃、水野運転のコロナが同県道から折れて右へ通ずる原判示農道に入り五、六〇メートルも進んで停車し消燈するや、松崎運転のカローラも続いて右折しコロナの二、三メートル後方にまで農道内を進行して同様に停車し消燈したこと、同所は附近一帯が杉林に囲まれ雑草の生い繁つた狭い農道で、夜分でもあり人通りなど全くなく淋しい場所であること、右現場到着後、水野は、皆で同女を強姦すべく、犯行の順番を打合せる考えでカローラに赴き、「おれ先にやるから」などと松崎および被告人鈴木と言葉をかわし、その旨互いに了解してコロナ車中に戻り、関および被告人長谷川に「後で呼んでいるから」などとうながして下車させたうえ、キミ子の座つている助手席をボタン操作でいきなり後方に倒し、同女の上に乗りかかつて押えつけ、抵抗する同女に「騒ぐな、騒ぐと皆んなに廻すぞ」「うしろに皆んないるから逃げても逃げられない」などと申し向けてその旨同女を畏怖させ、その反抗を抑圧し双方全裸の状態で同女を強いて姦淫したこと、右姦淫行為は、かなり長いあいだ執ように継続されたもので、この間、他の四名は、同女の悲鳴を耳にして水野による犯行の開始を確知するとともに、カローラ車中に集つて、水野の次に強姦に赴く各自の順番を皆で話し合い、被告人長谷川、松崎、被告人鈴木、関の順と定めたうえ、被告人長谷川はズボン、シヤツを脱いでパンツ一枚となり松崎はシヤツを脱いで上半身裸体となり被告人鈴木もサマーセーターを脱ぐなどそれぞれ準備して同車中に皆で待機するうち、しびれを切らした被告人長谷川が、右パンツ一枚の姿でコロナに赴き、いまだ姦淫行為を継続中の水野のかたわら運転席に座して同人に対し、「少し長いのでないか、やきもきして皆んな後で待つているから」などと早く順番を後の者に譲るよう催促し、同人から「女がしやべつてばかりいるので気分が出ない」旨聞かされるや、キミ子に対し「しやべるな」と申しつけ、同女から「とめて」(「水野をやめさせて」の意味)と哀願されたのにも何ら応ずることなく、そのまま運転席にあつて、計五分間くらいも黙つてその姦淫行為の成行を見守つていたもので、そのうち、水野が右行為を終えて左側車外に出たところ、これに続いて同女も車外に出、その直後、同女は「トイレに行くから」と言い残し全裸のまま救いを求めて暗夜の中へ逃走し数百メートル離れた人家に必死にたどり着いたものであり、その脱出に際し同女が原判示のような傷害を負つたものであること、およそ以上のことが認められるのであり、このような事実関係に徴すれば、水野が農道上の車中において佐藤キミ子を強姦するにあたつては、原判示のごとく、被告人両名を含むその余の四名が水野の右意図を察知し同人との間に互いに協力して輪姦行為を遂げようとの意思を右現場で暗黙に通じ合い水野がまず右犯行に及んだものであつて、すなわち右五名の間に現場での共謀関係が成立したものであると認めるに十分であり、してみれば被告人両名は各自姦淫行為を遂げなかつたとはいえ、右共謀による強姦致傷の罪責はこれを免れえないところである。所論佐藤キミ子および水野公正の各原審証言は、その被害状況ないし犯行時およびその前後の状況を具体的詳細に供述しており、各弁護人および被告人本人が証人尋問に立会つておりながら(佐藤キミ子の尋問の際には、被告人本人としては長谷川のみ立会)見るべき有効な反対尋問を何ら試みていないのであつて、右各証言なかんずく佐藤キミ子証言の信用性は非常に高いものと認められ、さらに所論被告人両名ならびに松崎悟、関俊次および水野公正の捜査官に対する各供述調書はその任意性、特信性に格別の疑いはなく、また、相互の供述内容に若干の喰違いもないではないが、右各証言と対比し、前記認定に副う限度では十分信用に値するものと認められるのであつて、これに対し所論被告人両名ならびに松崎悟および関俊次の原審公判廷における各供述のうち前記認定に反する部分はにわかに措信しえず、とりわけ被告人長谷川が、水野の姦淫行為継続中の車内運転席に前叙のような姿で入り込んだ目的に関して、それは水野に帰宅をうながしかつは自己のサングラスを捜すためにすぎなかつたなどと供述しているのは、関係証拠と対照して到底信用するに由ないところである。さらに記録を精査し、当審における事実取調の結果を検討しても、判示共謀関係の成立を認めて被告人両名を強姦致傷罪に問擬した原判決に各所論のような事実を誤認した違法があるとは認められない。各論旨は理由がない。

よつて、刑事訴訟法三九六条により本件各控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

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